木造住宅耐震改修実務セミナーへ

耐震実務02

今日は平塚市で行われた木造住宅耐震改修実務セミナーへ参加してきました。耐震診断や耐震改修の場面で役に立つのは当然ですが、新築の設計にも役に立つ内容です。診断や改修時に弱点になっている部分が建物の勘所なわけで、それを知ったうえで住宅の設計できるかどうかは、建物の実際の耐震性や耐久性に大きな違いを生んでくるはずですよね。

耐震補強工事は見た目にはわからないので、工事のメリット感じにくい。

耐震補強工事を行った方々へのアンケート調査では、実際に工事を実施した実感がわかないといった回答が多くみられるそう。耐震要素はほぼすべてが壁の中へ隠蔽されるので、見た目の変化がないことが主な要因。耐震改修が思うように普及していかない要因でもあるため、単に工事をするだけでなく、工事をしてよかったと実感してもらえるように取り組むことが、今後に求められる課題とのこと。具体的には、以下のような試みが好評。

  • 補強の前後でアンケート調査を実施、地震時の建物の揺れの違いなど、日常生活でのちょっとした違いに気が付けるようにする。
  • 工事中の写真を「写真集」にまとめ、どこにどんな工事をしたのかをわかるように「見える化」して、設計図書と一緒に渡すようにする。
  • 他のリフォーム工事(省エネ、バリアフリー、水回り、キッチンなど)と一緒に行い生活の違いを実感できるようにする。
  • 「日常生活を安心して送るため、安心の第一歩は耐震補強から」という点を丁寧に繰り返し説明することで、補強工事の意味について共通認識を持つようにする。

耐震補強計画・設計から逆算した現地調査を行うこと

このセミナーは事業者向けということで、理論というよりは、現場での実務に即した内容の濃いものでした。現地調査、設計時のポイント列挙してみると以下のようなものでした。

耐震実務01
  • 耐震性能をあらわす上部構造評点1.0は、一応倒壊しない=「直ちにつぶれずに、避難時間が稼げる」という意味。
  • 耐震補強において一番大切なことは、建物がつぶれないこと(人命を守ること)であり、建物が損傷を受けないこと(建物を守ること)ではない。
  • 耐震補強工事では限られた予算をどう配分するかの優先順位と費用対効果を考えることが非常に重要。
  • 基礎の補強は、工事が大掛かりであり高コストでもあるので、できるだけ基礎の補強をしないで済むような、上部構造を補強する計画を考えること。
  • 木造住宅では、基礎より先に接合部が外れて倒壊に至ることが多いことから、接合部の金物補強が計画の肝になる。
  • 構造用合板による水平構面の新設など大掛かりな工事はできず、耐力壁まで力を伝達する構造とすることが難しいため、結果として、耐力壁を多く・バランスよく配置する計画となる。
  • 上記のためには、基礎がどこになるのかを現地調査で把握することが重要。計画に合わせて内部に基礎を新設することなどまずできず、既存を利用することになるため。
  • 耐力の大きなHD金物が登場するような、基礎に過大な負担をかける計画を避ける。
  • 図面は信用しないこと。現場での目視を優先し、目視できなかったものは図面にあっても、ないものとして診断すること。
  • 評点は悪いのが当然。お施主さんが余計な心配をしないように…などと少しでも数字が良くなるように診断するのではなく、率直な診断をすること。
  • 上部構造評点1.0をめざすなら、補強計画は1.25では。現地では設計のようにいかないのは普通なので、かならず余裕を見た計画とすること。
  • 耐力壁や金物の仕様を統一し、できるだけ単純で、現場で混乱しにくい計画とする。
  • 施主が居ながらの工事となることが多いため、部屋ごとにまとめて工事し、一つの部屋が終わったら次の部屋へ移動するといった段取りとなる。そのため、壁のどちら側から工事するかなど、現場仕事に対する設計上の配慮が必要。

耐震補強工事のリスクへの対応

実務的には、現地調査ではわからなかった不具合等が発見されるのが当たり前なので、そうしたリスクへの対応として、事前にお施主さんの理解を得ておくことが重要。

  • 補強設計時に検討した見積額を超える費用となる可能性:あらかじめ見積もりの際に想定外費用分を見込んでおき、理解を得ること。
  • 補強設計時に検討した工事を超える工事期間となる可能性:あらかじめ工期延長の可能性を指摘しておき、理解を得ること。
  • 解体してみたら耐震要素(補強金物等)をつけることができずに、予定の耐震性能が満足できない可能性:余裕を持った補強設計としておき、理解を得ること。
  • 現場写真はどれだけ撮っても多過ぎることはないので、撮れるだけ撮ること。
  • 必ず工事請負契約をかわすこと(どんなに少額な工事でも):近年の悪質リフォーム工事問題を無くしていくために。

なぜその建物に耐震補強が必要なのか大前提を忘れないこと

  • 壁が少ない=耐力壁の増設
  • 接合部が弱い=接合部の金物補強
  • 基礎が弱い=基礎に過大な負担をかける補強計画を避ける
  • 軸組みの腐朽や蟻害がある=劣化部材の交換・補修