「土砂災害特別警戒区域内の建築物に係る構造設計・計算マニュアル」講習へ参加

土砂災害防止法

近年は豪雨災害が多く発生してます。それだけじゃなく、小さな地滑りが起きたり、道路が川のようになったりと、身近なところでも危険を感じることが増えているように思います。災害については、起きていることは知っているけど、どうやって対策しておくべきかなど、わかっていそうでわかっていない部分も結構ありますね。基本となる考え方や知識を改めて整理するために、「土砂災害特別警戒区域内の建築物に係る構造設計・計算マニュアル」講習を受講してきました。

土砂災害警戒区域や土砂災害特別警戒区域かどうか調べてみる

土砂災害警戒区域などは以下のリンクから検索可能です。公開されていれば、地震や津波、液状化などの防災情報へもアクセス可能です。 実際に公開されている図面は、縮尺が1/2500程度なので、詳しく知りたい場合は行政の窓口へ相談に行く必要があります。

リンク:国土交通省のハザードマップポータルサイト

土砂災害については、パンフレット「土砂災害から命を守るために」が非常によくまとまっています。こちらも以下のリンクからダウンロード可能です。一般の方にも設計者にもおすすめで、法や対策のポイントが分かりやすくまとまっているだけでなく、特別警戒区域に住宅を建てる場合の構造計算の方法や鉄筋コンクリート造などの仕様規定が紹介されています。注意点として、特別警戒区域はその性質上、崖下だけ指定されので、崖上だからと言って安全なわけでないこと、崖条例も必ず確認すること、既存の古い擁壁があったとしても新たに対策の必要があること(対策時期を行政へ確認)です。

リンク:「土砂災害から命を守るために」パンフレット(PDFファイル)

土砂災害構造設計マニュアル

構造設計の前提=やれることの限界

  • 居住者の避難時間を確保することが目的:十分に余裕を持った設計を行う
  • 原則は建物のすべての外壁が対象:土砂の流下方向が判断できる場合(設計者判断)であっても、建物のどこまで土砂が回り込んでくるのかはわからないので、土砂を受ける面と側面と3面は適合させること
  • 大きく崩壊することが予想される場所では、引っ越しを考えること:対応可能な範囲には限度があるため

上記の前提や実際の事例や写真から考えると、引っ越し(その土地を離れること)が最良の選択肢です。それもあり住宅金融支援機構では「地すべり等関連住宅融資」制度を用意しているので、住まいの移転やこれに代わる住宅を建設・購入するときには検討してみてはどうでしょうか。

リンク:地すべり等関連住宅融資  住宅金融支援機構

講習の備忘録(過去の災害から得られた知見のようなもの)

  • 崩壊する地盤の厚みは2~3m程度:法では2m以下を前提としている
  • 表層崩壊が多くみられる:法では深層崩壊まで考えると計算が成立しないので表層崩壊のみ考慮
  • ひと続きの崖の中腹に注意:中腹だけ対策しても全体が崩壊するので効果は少ない
  • 現地調査の結果から、土砂災害特別警戒区域と実際の崩壊範囲、埋まってしまう深さはかなり一致している:強いて言えば若干広め、深めに崩壊
  • 50~60cmあるような岩や木の根がたくさん流れてくる:避難時にも注意、自動車で避難できないこともありえる
  • 既存の擁壁は壊れました:既存の擁壁があっても新たに対策が必要な理由
  • 有機質土壌層と粘土層との境でよく滑る:粘土層が不透水層となるため
  • 地下水位が高いところで安定性が緩み滑る:土中で浮力が働いて重量による摩擦が減ることで滑る
  • 土砂崩れ直後は崩れたところは川のように水が流れている:日頃から水の流れている斜面付近は危険性が高い
  • 上流で山崩れがあると下流での水の流れも変わり(上流が埋まるので)想定範囲外で被害が起こる:一度起きた後で何が起きるのかまで予想できないので土砂災害警戒区域外であっても注意は怠らない
  • 広島豪雨では、近年整備されている対策はかなり有効だった
  • 300ガル程度の地震力が斜面に加わると、土砂災害と同じような状態になることが予想される点にも注意