理想の住まいには片づく仕組みと収納計画が必要

住宅収納スペシャリストテキスト

「収納」、建築の学校では教えてくれません。試験にも出ません。興味のある人間だけ、必要性を感じる人間だけが勉強する分野です。ですがそんな人間もごく少数、まずいません。基本的に建築家が設計する家は収納が少ないという共通認識が世間一般にありますよね。雑誌の平面図を見てマジで収納これだけ?とか思いますよね。でも、生活者である住まい手は、収納の重要性を身をもってわかっています。建築家は収納計画のダメな建物を設計しても、そこに住むわけでもないし使うわけでもないけど、住む側は日々モノに追われているわけですから。住宅収納スペシャリストであり、整理収納アドバイザーでもある熊澤ですが、備忘録もかねて自分なりの収納計画についての考え方をまとめておこうと思います。新築住宅やリフォームであれば、この内容を背景とした収納計画を設計します。

そもそも整理とは?収納とは?

整理というのは、モノを使いやすくするためにどうするか、といことなのです。決して「しまい込む」ことではないのです。同じように収納という言葉の意味も、「使いやすい状態にすることである」と定義してください。

ドイツ人の主婦は、ある日本人の主婦が行っている家事の様子を見て、こんなふうに言ったそうです。「日本人の奥さまは、普段使わないモノを一生懸命しまおうとしているんですね。そのために、すごく苦労しているみたいです。」では、ドイツ人の奥さんはどうしているのかといえば、使うモノをうまくしまおうとしているのです。

『一番わかりやすい整理入門』整理収納アドバイザー2級公式テキストより

「整理」とは、不必要なモノを取り除くこと。

「収納」とは、モノを使いやすい状態すること。

※「整理」があって「収納」があるという順序を大切に

もし、あなたの家が片づけても片づけてもまたすぐに散らかってしまう家だとしたら…それはあなたの責任ではありません。おそらく、あなたの家を設計した人の責任です。あなたの家の図面を作成するにあたり、事前に考慮すべきであった「片付けやすい仕掛け」を、うっかり忘れてしまったのです。だからといって、担当の設計者を責めてはいけません。彼は彼なりに、彼女は彼女なりに、「いい家」をつくろうと懸命でした。ただほんの少し、設計上の力点が、収納や片づけといった日常生活の作業性に関わる部分から逸れ、見た目のよさやコストといったそれ以外の部分に移ってしまっただけの話です。そしてそれは、住宅設計の現場では実によくある話なのです。

『片づけの解剖図鑑』鈴木信弘(エクスナレッジ) 「はじめに」より

住宅の6割は片付かない家と言われています。つまり、片づかない理由のほとんどは建物のせいだということ。でも意外にこの事実に気づけてない人が多いんです。どうしても自分が片づけ下手だと思っているし、潜在意識でも自分のせいだと思っているはず。収納の雑誌を買ってきて同じようにやってみたけど、どうも同じにならない。それもそのはず、住んでいる住宅も間取りも収納家具も収納スペースも違うんですから、ちょっとした小手先のアイデアだけでは対応はできないわけです。それ以外の理由としては、物が捨てられない、片づけ方がわからない、時間がないなどが名を連ねます。整理収納を進めるためには、まずは体系だった整理の手法=ノウハウを得て、モノがいつも使いやすい状態にあるように計画すること=収納計画が必要があるということですね。

片づく仕組み=整理のノウハウ  収納計画=使いやすくすること

まずは自分の収納タイプを見極めておきたいです。収納をまとめたいのか、分散させたいのか、 見せる収納か、見せない収納かなどです。そこで、現在の収納で気に入っているところを探してみましょう。改めて意識してみると、収納の好みがインテリアの好みにも影響を与えていたりするので、インテリアの好みを発見する機会でもあります。人によってキレイが意味するところが違うので、そのあたりも家族間で確認しておきたいところ。わかっている人はこのステップは飛ばして全然OKと思います。この後の具体的な順番は、以下の通り。

  1. 全部出す
  2. 使ってるモノ、使ってないモノ、思い出のモノを分ける(必要なモノと不必要なモノ)
  3. 使ってないモノ(不必要なモノ)は捨てる
  4. 使ってるモノ(必要なモノ)を使用頻度別に分類する
  5. その中で使用用途別にグルーピングする
  6. 収納場所へ仮置き
  7. 収納スペースの調整
  8. モノの定位置の決定
  9. 維持管理・見直し

1.全部出す

まず全部出します。靴収納なら靴収納、クローゼットならクローゼット、洗面所なら洗面所、キッチンならキッチンとまずはわかりやすいくくりでいきましょう。もっとミニマムに引き出し1つとかでもいいと思います。全部出すことで全体を一見でき、使っているかどうかもよくわかります。引っ越しが誰にとっても整理収納の良い機会になるのは、この全部出すという状態が基本だから。ちなみに靴収納が一番取り掛かりやすいとされいるので、そこから始めてみるのがおすすめです。全部出さずに部分的にちょっとだけやろうとすると、いつものように終わりの見えない取り留めもない状態に突入…。全部出すことでゴールがイメージされることが狙いです。

2. 使っているモノと使っていないモノを分ける

この1年間に使ったか使ってないかで分けましょう。必要か不必要かだと意外と分けるのが難しいので、使ったかどうかでいきましょう。 ここでの分け方ですが、1年以上使っていないけど、大切で捨てらないモノってありますよね?アルバムとか。そういったものは、別にしておきましょう。使ってるモノ、使ってないモノ、思い出のモノと3分割です。

3.使ってないモノは捨てる

4.使ってるモノを使用頻度別に分類する

  • 使用頻度1:毎日使うモノ
  • 使用頻度2:2,3日に1度使うモノ
  • 使用頻度3:週1回程度使うモノ
  • 使用頻度4:月1回程度使うモノ
  • 使用頻度5:年1回程度使うモノ
  • 防災用避難グッズ:いつ使うかわからないモノとして

5.その中で使用用途別にグルーピングする

同じ使用頻度のモノの中で、使用用途ごとにまとめます。一緒に使うモノ、使用用途が同じもの、使いたい場所が同じ場所モノなどで分けてみます。例えば、メモセットもそうですね。メモ用紙+ペンという括りになるし、薬であったり、爪切りと綿棒とハンドクリームであったり、ハエたたきと殺虫スプレーであったり。人によって家族によって違っていて当然で、いつもの習慣にあった形で分けてみます。爪切りのような小さいものなら複数個所に合ってOK。特に小さいものは使ったらその場所に置いてしまうことが多く、他の場所まで片づけに行くことはまずないです。そのためいつもの置き場になくて行方不明、使いたいときに使えないという例のパターンを生んでしまうわけです。それぞれ箱に入れてまとめることになると思いますが、透明か中身が見える箱(網の目状のもの)だとわざわざ開けないでいいので視認性が高くおすすめです。いざやってみるとわかるのですが、収納グッズはあまりたくさんはいらないです。できるだけ普段使えるもの、使っているもので対処することを優先しましょう。

6.収納場所へ仮置き

使用頻度1から順に仮置きしてみます。使用頻度1~3のモノが整理されるだけで、生活が格段にしやすくなります。大きなものとか思い出の品とかでなく、使用頻度順というのがミソですよ。場所に関しては、それぞれが使いやすい場所であることが大切です。「収納」とは、モノを使いやすい状態すること、という大原則に沿って進めていきます。収納する高さ、動線などにも注目して決めます。高さで言えば、中>下>上と使いやすい順番がありますが、一番使いやすい中から、使用頻度の高い順で納めます。他には大人と子供でも使える高さが違うので、そのあたりも気を付けましょう。平面計画的には、間取りの中でゾーニングしながら生活動線上、使いやすい場所を探しながら配置していきます。 収納が使いやすい状態になってくれることで、探す時間も減りますが、なにより片づけの手間・時間が大幅に削減され、維持管理も楽になります。

7.収納スペースの調整

置いたものがそのまま納まってくれれば問題ないですが、入りきらないこともあります。その場合はスペースの調整が必要です。調整は使用頻度の低い方から、別の場所へ収納することを検討します。もしくはここで捨てられると判断できるものがあれば、捨てることでスペースを節約しましょう。捨てる判断も使用頻度の低い側からします。移動先は、収納しやすい場所なのに余っているスペースが狙い所です。

防災用避難グッズも忘れてはいけない大切なもので、最低でも非難する動線上に持ってきます。できれば使用頻度1と同じで、目立つし使いやすい場所を確保することを目標にしましょう。思い出のモノも配置していきますが、こちらは高いところなど、俗にいう死蔵スペースに来ると思うので、きちんと目に触れるように収納しましょう。

8.モノの定位置の決定

これで定位置が決定しました。理想的には、人に聞かなくても使いたものの収納場所がわかる状態を目指したいところ。収納場所や収納棚、容器などにラベリングするなどできれば100点満点です。

9.維持管理・見直し

ダイエット時に一気に体重を減らすとリバウンドしてしまうのと同じように、急激にモノを減らすと、モノもまたすぐに増えてしまうんですね。

『一番わかりやすい整理入門』整理収納アドバイザー2級公式テキストより

維持していくうえで大切なことは、自分や家族を責めないことです。人の習慣はなかなかかわらないので、初めの頃は失敗することもチラホラあるはず。片づけに関しては、自分のせいだと(人のせいだと)考える傾向にあるというのは前述の通りですので、気を付けて。所有するものはライフステージいよっても変化します。例えば、お子さんの洋服やおもちゃなど、完璧に対応できなくてもしょうがないと腹をくくることも必要です。いずれは思い出の品を残して処分できるというような長期的な視点も持ってみましょう。

整理収納には、安全対策効果があることを忘れないでおきましょう。災害時の避難のしやすさ、高齢者世帯では転倒防止などの効果もあります。 熊澤は、福祉住環境コーディネーターでもあり、高齢者や障がい者に対し、できるだけ自立し、いきいきと生活できる住環境を提案するアドバイザーの役割も担っています。医療・福祉・建築について体系的に幅広く知識を身に付けていますが、その視点から言っても整理収納は大切ですし、収納計画の大切さは無視できるものではありません。

綺麗にするがゴールではなく、使いやすくすることがゴール。

住宅収納スペシャリストテキスト2

住宅収納スペシャリストや整理収納アドバイザーは、整理収納はセンスではなく知識との考えのもと、ヒアリング力や提案力を磨いている集団です。モノに関しては、入る量の方が出る量よりも絶対的に多いです。どれだけ最初に素晴らしい計画案があっても、意識しないと自然とモノは増えます。そのため住まい手が日々の生活の中で、片づけを促進させることができるような仕組みにも注力しています。モノもちゃんと使ってあげてこそ本望という言葉もあります。 整理、収納、整頓、片づけでお困りの方は、ぜひ、住宅収納スペシャリストや整理収納アドバイザーにご相談を。その価値があると思いますよ。 熊澤でもいいですし、男性に収納内を除かれるのが嫌な方や、女性の一人暮らしの方など何か事情をお持ちであれば、仲間をご紹介することももちろんできますので、ご相談ください。

おすすめの書籍は、

テキシト解剖図鑑
『一番わかりやすい整理入門』澤一良(ハウスキーピング協会)整理収納アドバイザー2級公式テキスト
『片づけの解剖図鑑』鈴木信弘(エクスナレッジ)

一般の方で理論的、体系的に考えてみたい人には、『一番わかりやすい整理入門』(第4版)です。整理収納アドバイザー2級の公式テキストでもあります。具体的な施策はそんなに載っていませんが、どうやって考えていくのか頭が整理される本です。この本を読んでから、また改めて、お手持ちの収納本を見ることをお勧めしたいです。

建築関係者は『片づけの解剖図鑑』鈴木信弘(エクスナレッジ)。鈴木先生のこの本くらい読んでおかないと、設計者として恥ずかしいというか、住宅の設計者としての基本的な教養がないと思われても反論できないかなと思いますよ。