建築士会主催の「建築生産入門」講習会へ

建築生産入門

建築生産とは、建物の企画段階から設計、施工、維持管理にいたるまでの一連の流れのこと。良い建物を作るためには、良い仕事が必要で、良い仕事のためには仕事の現場を知ることが必要ということですが、言われれば当たり前。良い設計をするためには、やはり現場を知らないといけない。個人的に日頃から機会を見つけては研鑚を続けていて、この講習会もその一環。小さなことでも続けてみれば、それなりの形になるもので、業界専門誌の建築知識の2017年11月号の現場監理の特集では、出筆協力までさせて頂くまでになりました。

現場の始まりは設計者の図面から

設計者は、設計業務において、建築主の想いを形にするため、建築主から設計の依頼を受けて業務を行い、設計図、特記仕様書などを作成する。

『施工が分かるイラスト建築生産入門』日本建設業連合会編 彰国社

工事監理者は、建築主から監理を受託し、設計図どおりに建設現場での工事が行われているかどうかを確認し、不具合があれば適宜、建築主に報告し、施工管理技術者に対して是正指導などを行う。

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施工者は工事を完成させるために、設計図に基づき、施工図という総合図・躯体図・製作図などを作成する。

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大きな建物とは違い、一般的な木造住宅の現場であれば、相当に難しい部分を除いて施工図が描かれることはまずないです。それ故に設計者の図面の重要度が増します。設計者の図面がそのまま現場へ届いて打ち合わせが行われ、墨出しや制作に使われ、間違っている場所や納まっていない場所があれば、そこで初めて露見します。施工図が描かれるということは、ダブルチェック体制が働くことと同じで、施工図を作図する段階で発見される可能が高くなることを意味します。

どんな仕事でもそうだと思いますが、プロジェクトの足を一番に引っ張るのが現場での手戻りですよね。原価、品質、工程、管理、利益とあらゆるものを台無しにする諸悪の根源みたいなものです。ミスをゼロにはできませんが、できるだけ減らしたいのが本音です。一般的な木造住宅の現場では、この手戻りをどれだけ減らせるのかは、設計者の図面の精度・整合性に掛かってるというわけです。

手戻りを出さない工夫は、現場を知ることと図面の見える化。

手戻りを減らすためには、実際に制作する前の段階でミスを発見すること、現場打合せの段階で発見することです。現場を知ることで、この打ち合わせの時に何が必要とされるのかを初めて理解できるようになります。設計者から現場まで同じ意識の共有ができれば、質の高い仕事ができる道理です。また、基本的に図面は2Dの世界なので、図面を頭の中で3D化して考えることになります。この頭の中の3D映像が皆同じものをイメージできるようにCGやスケッチで見える化することで、より質の良い打ち合わせにもなります。

現場での意識の共有を促すために、個人的に以下の点に気を付けて、いつも図面を作図しています。特に詳細図では意識しています。

  • 設計意図(注意点)
  • 見やすさ(あまり書き込みすぎない)
  • 全体をみる縮尺での図面
  • 詳細をみる縮尺での図面
  • 墨出しのための基準になる寸法
  • 見える化のためのCGやスケッチなど
詳細図の例

近年、建築現場でも専業化による多職種化が進み、昔と比べてより多くの職人さんが関わるわけで、こうした意識を共有化する試みがますます大事になってくるとも思っています。

施工者を特命とするわけ ― フロントローディング

設計段階で施工者が決定しているプロジェクトや設計施工を一体で請け負うプロフジェクトでは、設計へ施工者のノウハウ(品質確保・工期・コスト面でのメリットのある生産情報など)を取り込むことができる。

『施工が分かるイラスト建築生産入門』日本建設業連合会編 彰国社

上記の考え方をフロントローディングといいますが、これが弊社で施工者をまず特命として検討したい一番の理由です。三社見積もりを取ることでは上記の利点を享受することは無理だと考えています。設計者が施工について詳細まで理解するには限界があります。設計者は設計の専門家ですが、施工の専門家ではないです。また、はじめて仕事をする工務店や人間がどんな技術や考え方を持っているかを理解することにもまた限界があるはずです。見積書のフォーマットも各社違い、各項目に含まれる工事も違い、それ故に項目ごとの金額も違い、当然、見積もり落ちもあります。そのような限界のある中で、実際のところ、三社見積もりでは最終的にどうやって施工者を決定しているのでしょうか?

加えて、技術力のある工務店は、三社見積もりお断りというところが多いです。わざわざ一見さんの外部の仕事を無理して取らなくても、自社でも紹介でも仕事があるからです。技術力のある工務店のノウハウを取り込み、フェードバックを反映させることで、より質の高い設計とすることができます。そのためのフロントローディングであり、施工者を特命として考えている根拠です。