五十嵐商店よ 永遠に

五十嵐商店ファサード

建物が好き、建築好きな人間には、街で気になる建物が必ずあるはず。今日はそんな建物、五十嵐商店を見学できました。これまで何度となくこの建物の前を車で通っていて、いつも気になっていて、いつかは見てみたいと思っていた建物。あれ?なんか最近、綺麗になった?とか思ってたんですが、国の補助金をうけて保存活用に向けて整備され始めたそう。そんな活動を支えている、かながわヘリテージマネージャー協会さんのスキルアップ講座「五十嵐商店のトライ(挑戦)」がこちらで開かれ、そこへ参加させてもらえました。

西立面

建物を良く見ると、ところどころ黒く汚れているんです。なんとこれ、第二次大戦時に空襲から建物を守るために黒くタールで塗った時の名残だそう。

窓の意匠

窓の意匠は、外部も内部も繊細で美しいです。本当に良い仕事してます。上げ下げ窓の金物、今じゃ手に入らない貴重品だそう。捨てなくてよかったと所有者の五十嵐さんが言ってました。ガラスは当時のもののまま。昔のガラス、今のガラスよりなぜか綺麗に見えるという話に。その薄さであったり、微妙な歪みであったり、材質であったり、複合的な理由でしょうけど、実際の理由なんてどうでもいいかという結び。ちなみに壊れていた窓枠の再生にはヒノキが使われたそうですが、キシラデコールのパリサンダで着色したそうです。

小窓

広い土間のある1階はお店として使われていたわけですが、そのお店の奥の和室にちょっとした小窓が。手前の四角は掘りゴタツで、今のような寒い時期であれば、ここで暖を取りつつ、小窓からお客さんがくるのを見ていたそうです。

階段

動線との関係でちょっと斜めになっている階段。粋な感じ。

屋根

特別に上がらせて頂いた屋根。こういう屋根、初めて見ました。四方陸棟屋根というそうです。屋根葺き材は、ステンレスに銅をコーティングしたもので、表面の色は緑青の色だそう。屋根への通用口を閉め忘れたとき以外、雨漏りはしてないそうです。今日はすごく寒かったですが、視界は360度。丹沢山系から富士山まで綺麗に見えてました。あれ?小波板、乗っても大丈夫じゃん。釘は山留め。

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同じ敷地内の倉庫も見学させていただけました。イベントなどで使われることもあるそう。音響効果も良さそうです。構造現しの建物だけが持つ素晴らしい構造美。これくらい美しい構造の住宅を設計したいです。どれだけ見ていても飽きない。

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別の倉庫。この棟木?梁?母屋?のサイズが凄い。人と比べると歴然。こちらは和小屋ですが、さっきの倉庫は洋小屋。材の使い方の違いも比較できて面白い。

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同じ建物の床組を見ると、決してむやみやたらに大きな材を使っているのではないことがわかります。無駄なく、整然とした架構。使う理由があって使っているんですね。

カンナ削り

最後にこの五十嵐商店の修復作業をされた大工の村上さんによるカンナ体験会。実際にやらせていただきました。写真では上手く写せていないのですが、指が透けて見えるほど、ミクロン単位で薄く削れました。村上さんのサポートありですが。ヒノキのいい匂いがするし、なぜが美味しそう。

所有者である五十嵐さん、かながわヘリテージマネージャー協会の内田さん、NPO法人秦野にぎわい創造まちづくりの中野さん、実際に工事をされた大工の村上さん(なんと二級建築士をお持ち)、秦野市生涯学習課の横山さんといった実際にこの建物の保存活用に向けて頑張っておられる方々のお話を直接聞けて、素晴らしい1日になりました。ありがとうございました。これだけ愛されれば本当に建物は幸せです。そんな建物を設計したいです。

五十嵐商店はカフェやってます。秦野は水の美味しい街、名水の湧く街です。ハンドドリップのおいしいコーヒーが飲めます。何を隠そう、こっそり4杯も飲んだのは私です。お近くに行く機会があれば、ぜひお立ち寄りください。

  • 木造3階建
  • 建築面積122㎡
  • 門柱付1棟
  • 神奈川県秦野市本町二丁目2687
  • 登録年月日:20171027
  • 登録有形文化財(建造物)

https://www.city.hadano.kanagawa.jp/www/contents/1508569643658/index.html

https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/294810