リノベでの見積調整の考え方

1.見積調整の大前提

リフォーム工事の見積調整というと、「高い項目から順番に削って、なんとか予算内に収める」そんな作業をイメージするかもしれません。

もちろん、最終的には予算の中に収めなければならないのですが、金額だけを見ながら工事を削っていくと、せっかくの改修なのに、全体としてなんだか物足りない住まいになってしまうことがあります。

住宅には、安全性や耐久性、性能、生活機能、快適性、意匠など、いろいろな価値があります。限られた予算を、その中のどこに、どれくらい使うのか。結局のところ、見積調整で考えたいのはここなんですよね。

「何を削るか」ではなく、「何を実現するために、どこへ予算を配分するか」

まずはそんな考え方を、住まい手と設計者で共有するところから始めるのが大切だと常々思っています。

2.リノベーション工事を5つに整理する

ひとことで「リノベーション」と言っても、その中身はいろいろあります。「改修」と言ったり「リフォーム」と言ったりもしますが、実際には目的も規模もかなり違います。大きく整理してみると、だいたい次の5つくらいに分けられます。

区分主な工事内容主な目的
小規模修繕手すり設置、段差解消、建具調整、部分補修など不具合や不便の解消、安全性・使い勝手の改善
設備更新キッチン、浴室、洗面、トイレ、給湯設備など老朽設備の更新、機能・利便性の改善
部分改修屋根、外壁、内装など特定部分の改修建物の特定部分をまとめて更新・改善
性能改修耐震、断熱、窓、気密、換気、防音など建物そのものの性能向上
全面改修内外装、設備、間取り、構造、断熱などを総合的に改修住宅全体を現在の暮らしや要求性能に合わせて再構築

全面改修というと、何か特別な工事のように聞こえます。でも実際には、小規模修繕や設備更新、部分改修、性能改修などを、その住宅に必要な範囲で組み合わせたもの、と考えた方が分かりやすいです。なので、同じ全面改修でも、耐震を重視する住宅もあれば、断熱を重視する住宅もあります。設備を新しくしたい人もいれば、間取りを大きく変えたい人もいます。当然ですが、何を組み合わせるかは、住む人と建物によって変わってきます。

3.工種別見積を「目的別予算」に読み替える

施工者から出てくる見積書は、仮設工事、解体工事、木工事、電気工事、給排水設備工事、内装工事といったように、工種ごとに分かれています。これは施工する側からすれば、とても合理的な分け方。ただ、住まい手からすると、

「結局、何にいくら使っているんだろう」

というところが、分かりにくい。そこで、見積調整をするときには、工種別の見積書をそのまま見るのではなく、

  • 耐震・構造
  • 断熱・窓などの性能
  • 設備更新
  • 間取り・生活機能などの快適性
  • 屋根・外壁・内装などの更新
  • 仕上げ・造作・意匠

といった「工事の目的」に置き換えて考えてみると良いです。例えば、耐震補強にいくら、屋根の葺き替えにいくら、床の張り替えにいくら、壁の断熱にいくら、床の断熱にいくら、内窓にいくら、などなど。そんなふうに整理していくわけです。

「屋根工事」の金額だけでは、屋根の葺き替え費用は分からない

例えば、見積書に「屋根工事」という項目があります。そこには屋根材や下葺き、軒先やケラバの板金、棟換気などが入っています。では、そこの金額を見れば「屋根を葺き替える金額」が分かるかというと、実はわからないのです。

見積書では、既存屋根の撤去と処分は解体工事、野地板などの下地材と大工さんの手間は木工事、足場は仮設工事、取り合いのシーリングは防水工事、雨樋は板金工事、といった具合に分かれてしまっています。施工者にとっては、それで問題ありません。でも、住まい手が知りたいのは、

「屋根を全部葺き替えると、結局いくらかかるの?」

ということですよね。なので、複数の工種に散らばっている金額を拾い直して、「屋根の葺き替え」という一つの工事として自分でまとめ直す必要があるのです。そうして初めて、

「屋根にこれだけかかっているんだな」

「では、こちらを残して、こちらを調整しようか」

という話ができるようになるわけです。

4.優先順位を決める5つの判断軸

では、実際にどうやって調整するのか。私はだいたい、次の5つくらいの視点で考えています。

① 安全性

まずは、その工事をしなかったときに、人や建物の安全にどれくらい影響があるか。耐震補強や構造上の問題、設備の安全、転倒防止などですね。ここは、やはり優先順位が高くなりやすいです。

② 耐久性

次は、今やらないことで建物の劣化が進んでしまわないか。あるいは、後になってもっと大きな修繕費が必要にならないか、という視点です。雨漏り、腐朽、屋根や外壁、給排水管など、水に関係する部分がここに来ます。木造の大敵は水なので。

今は何とか使えているのでダメになるまでトコトン使い切る、というのも良い判断と思います。

③ 使用頻度・日常生活への影響

その部分を、普段どれくらい使うのか。これも大切な視点です。キッチンや浴室、トイレ、洗面、収納、家事まわりなど、毎日使うところは、少しの違いでも暮らしへの影響が大きくなります。逆に、ほとんど使わない場所に大きな予算をかけても、生活全体の満足度にはつながりにくいです。

④ 快適性

断熱、窓、遮音、照明、設備の使い勝手、仕上げ。このあたりは、「やらなくても暮らせるけれど、やると毎日の暮らしがかなり変わる、日常生活に潤いが出る」という部分。例えば断熱などは、完成したあとには見えなくなってしまいますが、暮らしが始まるとその違いは肌感覚として毎日の生活に影響を与えます。

⑤ 後施工性

「これは後からでもできるのか」ということです。注意したいのは、木造住宅の場合、「後からできる、できない」だけで考えると、判断を誤るか、判断できなくなります。極端な話、その気になれば後から何でも工事できてしまうのが木造住宅と言えるので。

ポイントは、後からやるとどれだけ大変になるのか、という難易度へ注目することです。例えば、設備機器や一部の仕上げなら、将来でも比較的交換しやすい。一方で、壁の中の断熱材や配管、構造補強などは、今ちょうど壁や床を壊しているなら、そのときにやった方がずっと楽。全面改修では特に、

「今だからやりやすいもの」と「後でも比較的やりやすいもの」

を分けて考えると、かなり整理しやすくなります。

5.一律に削減するという考え方を捨てる

例えば、見積金額が予算を10%超えていたとすると、「全部一律に10%ずつ減らせばいいのでは?」という話になることがあります。気持ちはよく分かりますが、実際にはそうは問屋が卸してくれません。見積書というのは、材料や製品、職人さんの手間を積み上げてできているので、すべての項目に同じように10%を見込める余白があるわけではないんですよね。

工事範囲や施工方法を変えれば、手間を減らせることはあります。でも、メーカーの製品価格や工事単価のようなものは、一律10%下げられません。工事内容を何も変えずに価格だけ施工者に下げろというだけでは、不当な値引き要求になってしまいます。

もう一つ、一律に削る方法には問題があります。「10%削る」という数字が先に立ってしまうことです。本当は削る必要のないところまで、「ここから何か減らせないかな」と探し始めてしまいます。そうすると、見積書の中で分かりやすく書いてある項目ほど、かえって削減候補になりやすい。例えば、見積書にシロアリ対策のホウ酸処理があったとします。家族の誰かがシロアリ対策を大切に考えていて、しかも後から同じ範囲を処理するのが難しいのであれば、今やっておく意味はかなりあると考えます。でも、違う考え方の家族からすれば、普段目にすることの少ない項目でパッと見で目も引くので、「これはなくしてもいいよね?」となりがちです。

要するに、見積書で目につきやすいことと、削ってよいことは別なんです。

なので私は、一律に削るという考え方は捨てたほうが良いと思っています。例えば、耐震補強や劣化対策は残す。その代わり、設備のグレードを下げる。仕上げ材を変える。造作家具を減らす。そんなふうに、工事ごとの意味を見ながら、残すところと調整するところを分けていく作業が大切です。

6.「仕様を下げること」と「工事を行わないこと」を区別する

予算を調整する方法は、大きく分けると二つあります。一つは、仕様を下げること。例えば、設備機器のグレードを下げる方法ですね。ただ、この「仕様を下げる」という言葉は、少し注意が必要だと思っています。下げるというと、なんとなく悪くなるように聞こえるからです。でも、下げるかどうか検討しているのは、いったんショールームなどで選んだ仕様で、まだ現実になっていないものです。

例えば、今使っている浴室がタイル張りの古い在来浴室や古いユニットバスだったとします。すると新しいユニットバスなら、最低限の基本仕様を選んだだけでも、今よりずっと使いやすくなるし快適になります。ところが、ショールームでいろいろな機能を見て、「あれも欲しい」「これも付けたい」と選んでいるうちに、勝手にそれが自分の基準になってしまうんですね。

なのでそこから一つでも機能を外すと、「なんだかランクを下げた」という気分になってしまう。でも、本来比べる相手は、今の浴室のはず。そう考えると、仕様を下げたとしても、今よりずっと快適なはずなんです。

もう一つは、工事そのものをやめる方法です。断熱改修そのものを見送る、造作家具そのものをやめるという類のものです。

同じ100万円を減らすにしても、「仕様を少し下げて工事は残す」のと「その工事自体をやめる」のとでは、当然、住んでからの生活に与える影響が違います。

なので、見積調整では、

「仕様を下げる話なのか、工事そのものをやめる話なのか」

ここを違うものとして、分けて整理しておくことが大切です。

7.「今回」と「将来」を分けて考える

住まいへのお手入れは、今回の工事ですべて完成、完結するわけではありません。これからまた何年も何十年も住んでいけば、設備を交換するし、暮らし方が変わってまた手を入れることになるでしょう。全面改修だからといって、「今回、全部やらなければ」と考える必要はないです。

例えば、工事をこんなふうに分けてみます。

  • 今回やっておきたいもの、必要性が高いもの(住まい手の希望や暮らしから見た必要性)
  • 今回やる方が合理的なもの(施工の難易度や費用から見た合理性)
  • 将来でも比較的やりやすいもの

この分け方をすると、少し考えやすくなるはずです。将来でも比較的簡単にできる工事は、将来に回してもいい。その代わり、壁や床を開けている今だからこそやりやすい工事に、きちんと予算を使う。そんな考え方が筋が良いです。

8.最終的には「全体としての納得度」を確認する

最後に再度、住まい全体、計画の全体像を眺めてみます。

  • 安全性ばかりを優先して、暮らしの楽しさがなくなっていないか。
  • 設備や仕上げにお金を使いすぎて、建物として必要なところが不足していないか。
  • 今回見送ったものは、本当に将来でも無理なくできるのか。

一項目ずつ見ていると、それぞれの判断は間違っていなくても、全体として偏ってしまうことがあります。なので最後は、「この家全体として、これでいいだろうか」と、もう一度考えてみます。

予算も大事です。性能も大事です。毎日の暮らしも大事です。そして、せっかく家を直すのであれば、「やってよかった」と思えるものにしたい。最後は、そんな全体としての納得感を確認します。

9.終わりに

部分的な修繕でも、リフォームでも、リノベーションでも、新築でも、最初に出てきた見積金額が、最初に考えていた予算内におさまる、そんなことは実際にはありません。

昨今のような値上がり局面で、実際に予算大幅オーバーの時などは、見積金額を見ただけで落ち込んでしまったり、見積もりをした意味があったのかと根本の部分について悩んでしまうこともあるでしょう。でも、見積もりを取ること自体には、とても大きな意味があります。

「あそこも直したい」

「ここもいつかやりたい」

と考えていたものが、実際にはいくらかかるのか。具体的な金額として知ることができるし、その唯一の機会でもあるのです。これは大きな一歩です。金額が分かれば、そこから考えられます。スタートラインに立てます。

「これは残したい」

「これは仕様を下げてもいい」

「これは今回はやめておこう」

「これは将来でもいいな」

そんなふうに、一つずつ整理していけばいいんです。見積調整というと、「削る作業」のように聞こえます。でも本当は、限られた予算を使って、

「自分たちは、この家で何を大切にしたいのか」

を考える作業なのだと思います。そうやって、予算にも、これからの暮らしにも納得できる計画に整えていければいい。私はそんなふうに考えています。