地盤インスペクターの講習会へ巣鴨まで行ってきました。地盤についてきちんと意識を向けている設計者は非常に少なく、地盤調査結果を右から左が現状です。熊本地震をはじめ、昨今の巨大地震でわかったことは、最終的には地盤が被害の大きさを決めるというものでした。地盤について少しでも理解を深め、少しでも自分の設計に反映し、少しでも被害を減らしていきたいと思い、受講しました。
地盤事故ZEROを目指すなら「安全基準を正しく理解する」中村裕昭先生
- 法的安全基準:公平であることと誰でもできることが優先されるもの
- マニュアルの安全基準:方法やその手順を標準化するためのもの
- 工学的安全基準:過去の知見を基に「安全」を目指すもの
この3種の違いを理解しすることが専門家として第一歩というお話でした。これまでこの違いを意識することもなければ、そもそも知らなかった視点です。非常に大切な視点です。地盤評価や地盤調査書を正確に読み取るために必要なスキルでもありました。
- 地盤事故は防げることを知る
- 地盤事故を回避する意思を持つ
- 地盤事故を回避するための手順を踏む
専門家として、事故に関する知識を持っているだけでは事故を無くすことはできず、防災対策をとることで事故を無くすという強い意志が何より必要との結びも印象的でした。
中村先生は地盤の専門家として地域環境研究所の技師長を務めつつ、東京地方裁判所の専門委員・民事調停委員もされておらる方で、理論だけでなく実際に現場で何が起こっているのかなど、現実に沿ったお話を聞くことができました。
住宅倒壊ZEROをめざすなら「構造理解」は必須 佐藤実先生
佐藤先生はこの世界の人間なら誰もが知る木構造の第一人者と呼ぶに相応しい方。知らないならもぐりだと言われても文句言えません。構造塾を主催なさっていることでも有名です。
知っていますか? 大地震で命を落とすのは、大半が「人間」… どうして人間が命を落とすのか、 それは、人間が作った建物が倒壊するからです…
地盤インスペクターテキストより 佐藤実先生
地震で本当に怖いのは「揺れ」じゃないですよね?原っぱの真ん中で揺れても怖さをあまり感じないはずです。じゃあ何が怖いのか?建物が壊れるから怖いんですよ。
地盤インスペクター講義より 佐藤実先生
なぜ構造計算が必要か?しないと実際の耐震性能が不明のままということですよ。
地盤インスペクター講義より 佐藤実先生
この部分にすべてが集約されているなと思いました。だからこそ、地震の時に建物は壊れちゃだめで、住宅は中にいる人を守れないといけません。そのためにどうしたらいいのか?先生の答えは、
耐震等級3とすること
あの震度7が2回も起きた熊本地震。揺れが最も厳しかった益城町の調査結果から得た結論だそうです。益城町には耐震等級3の家が16棟あり、地震後も16棟すべて住み続けている(うち2棟は少し補修あり)という事実から導き出したものだそうです。そしてもう1つわかったことが、耐震等級1(建築基準法の耐震性能)は、1回は震度7でつぶれずに済んだ(大きく傾いてもう住めない)けど、2回目ではつぶれたこと。1回の揺れ限定で命は守るけど、被災後は住めない住宅(耐震等級1)と、2回揺れても命も財産も守られ、また住み続けられる住宅(耐震等級3)と、どちらがいいですかと。耐震等級3が当然だよねと。
その後、後半では、スキップフロアや勾配天井などの特殊形状の構造計画の考え方について、耐震診断や補強設計についての2つについての講義となりました。
2つの講義を受け…
熊澤悟史建築設計事務所は、「工学的安全基準」の視点から地盤を読み取り、全ての新築住宅を「構造計算」し、「耐震等級3」で設計します。
地盤ネット株式会社 伊東洋一CEOによる講義
地盤調査でおなじみの地盤ネットさん(地盤ネットHPへ)ですが、最近の地盤事故の話が最初。それに続き不同沈下で傾いた住宅の修復工法とコストについて、地盤状況を効率的にしるための地盤調査の組み合わせなどへと続きました。今後は、SWS試験(スウェーデン式サウンディング試験)だけではなく、微動探査、広域情報を整理した地盤安心マップという3つを組み合わせるという方向が本筋なようです。そして私もマスター会員となっている木造住宅倒壊解析ソフト 「wallstat」も積極的に活用していくそうです。
ちなみに伊東CEOは、私と同じように家の建て替えがきっかけで、建築の世界に入られたそうです。不同沈下、豪雨被害、震災被害ZEROを目指して頑張っていかれるそうです。お互いに頑張りましょうとエールを交換しました。