ライティングコーディネート(照明計画)の世界では、照明とは単に明るさを得たり雰囲気を味わったりするためだけのものではなく、人の心身の健康に大きく貢献するもの、影響を与えるものとして捉えられています。実際にその健康効果などが確認され始めており、設計の現場において、その重要性がどんどん高まっています。その反面、建築設計者においてその重要性を理解している人は非常に少なく、今だに照明は”電球色がよい”や”暗めの計画が落ち着く”といった程度の理解・設計しかされていないのが実情で非常に残念です。熊澤はライティングコーディネーターでもあるので、住宅の設計の現場で考えておきたい基本的な部分をまとめておきたいと思います。画像は遠藤照明さんのカタログよりお借りました。
サーカディアンリズムと調光調色
調光はわかるけど、なぜ調色まで必要なのか?という疑問への返答ですが、調色を実現することで、生活や個々の作業のしやすさ、サーカディアンリズムにあわせることによるストレス軽減による健康効果などが期待できることがあげられます。また昨今急速に普及しているLEDですが、省エネだけではなく、こういった調色まで可能にする能力を持っており、そのメリットを最大限に活かし、快適性を向上させようという意味もあります。結果として、必要なときに、必要な場所に、必要な光を得ることができるようになり、室内の光環境を自然環境に同調させることができるようになります。
サーカディアンリズムとは、体内時計のことです。体内時計は「24時間と少し長いか短い」です。地球の自転は24時間ですから、若干のずれが発生するのですが、このズレを修正するのが、目から入る光であり、光環境が人の健康に影響を与える所以とされています。サーカディアンリズムと光環境とがズレるとストレスとなり健康に影響を与えます。寝る前にスマホの画面を見ない方がいいというのも、このサーカディアンリズムと光環境のズレが発生するため、睡眠ホルモンであるメラトニンが十分に分泌されないためです。サーカディアンリズムは光や温度変化のない環境でも認められるため、光環境によって調整する必要性があり、LED照明は調光調色が可能なため、その役を演じることを期待されています。
空間の居心地について、クルーゾフ効果というものが影響を与えています。クルーゾフ効果とは、光環境について、照度と色温度の組み合わせによって、快適にも不快にも感じるというものです。例えば、青白い光の時は暗いと不快感を感じやすく、赤に近い色ほど明るくなると暑苦しく不快に感じることなどです。このように影響を与える照度と色温度とに対しても、LED照明は調光調色が可能なため、その役を演じることを期待されています。
以下、順を追って照明計画を考えるときの概要をまとめて、考え方を整理します。
適材適所の照明
「電球色」が落ち着きや安らぎを与えてくれることは本当ですが、作業するには向きません。キッチンでの作業にしてもお化粧にしても勉強にしてもとても困難です。ところがこの部分の照明を「昼白色」にしてみると困難さは消えます。設計では住宅の内のどこでも電球色で計画したけど、住んでみて不便さに気がついて電球の色を変えた方が多いのではないでしょうか。もしくは電球色の雰囲気を崩さないように電球の色を変えるのではなく、数を増やすことで明るさを増し、見えにくさを補っている方もおられると思います。その場合はクルーゾウ効果がはたらいて、暑苦しい感覚にとらわれているのではないでしょうか。おしゃれには我慢が必要という言葉もありますが、我慢は少ないに越したことはありません。できるだけ我慢が少なくなるように、はじめから適材適所で計画しておく必要があるわけです。
注目すべきは色温度
照明を考えるとき「どれくらい明るいだろうか?」と明るさばかりに気を取られてしまいます。しかし最初に考えるべきは「色温度」つまり「光の色」です。昼間の光の色はあまり意識されませんが、夕日だとオレンジ色、夕焼け色というようにイメージできますよね。住宅で行われる活動には、どんな光の色が適しているのかを考えるのが照明計画のスタートになります。色温度による光の色の分類の代表的なものが以下の4つになります。(K:ケルビン:色温度を表すために使う単位)
- 「電球色」 朝焼けや夕焼けの色 約2700K (電球色で眠くなる人は温白色で)
- 「温白色」 電球色と昼白色の中間 約3500K (最近出始めた万能型)
- 「昼白色」 日中の太陽光の色 約5000K (どんなものでもきれいに見える)
- 「昼光色」 曇っているときの空の色 約6500K(眩しいので出番なし)
※演色性「Ra」(平均演色評価数)は少なくともRa80以上(できればRa85)のものを選択
色温度に合わせてスイッチ計画の回路分け
ほしい光の色(色温度)が違うということは、使う目的やタイミングが違うはずです。それぞれに別々のスイッチを用意して、別々に点灯・消灯ができるようにします。
作業照明と全体照明(手元の明るさと部屋の明るさ)
タスク・アンビエント照明ともいいますが、手元作業のために必要な照明と、部屋全体で必要な照明を分けてスイッチの計画します。分けることで、必要なときに必要な分だけ点灯・消灯ができ、省エネというだけでなく、部屋の雰囲気づくりや作業のしやすさに一役買います。手元の照明は、本を読むなどの計画であればスタンド(スタンドライト、フロアランプなど)のようなものでいいです。その場合は、そばにコンセントを用意しておきます。
外部照明には積極的にタイマースイッチやセンサースイッチを採用しましょう。
全体照明(アンビエント照明)に調光調色を計画
全体照明にはサーカディアンリズムやクルーゾフ効果を念頭に置いて、調光調色計画を取り入れます。調光調色することで、室内にいても外部環境を感じやすくなることもポイントです。時間帯、季節、気分にあわせることで、自然光の中にいるような居心地の良さや雰囲気を味わうことができます。作業照明(手元照明)には作業にあわせて、演色性の高い昼白色から温白色の照明として計画します。
わかってはいても高コスト
実際のところ、まだ調光調色は一般的ではありません。そのため高コストであることも事実です。採用するときには、場所を絞って採用するのが現実的な選択かもしれません。採用するにあたっての優先順位は、まずLDKだと思います。家族をはじめ人が集まる場所にこそ、採用したいものです。
照明計画にそこまで力を入れられない方であれば、色温度にあわせた回路分けができていれば十分ともいえます。たとえばキッチンまわりを考えてみると、作業をするキッチンカウンターにはスポットライトなどを使った昼白色の作業照明を、ダイニングには電球色や温白色の全体照明とテーブル用のペンダントライトを採用しておき、食事をとるときにはキッチンの作業照明は消してしまえば、十分に居心地の良い空間が作れます。キッチンの照明を消したとしても隣のダイニングの照明がついていれば、ちょっとカウンターや冷蔵庫にものを取りに行ったりするには困らない程度の明るさがあるはずですから。
これから照明計画をされる方は、LED照明による調光調色を積極的にご検討ください。